2010-03-26

「信仰告白」

男は、真っ赤な顔でしゃべりはじめた。

信じてもらえないでしょうが、私は「たましい」を見ました。ほかに表現のしようがない出会いです。

私は彼女の素直な姿を見ました。恥じらう姿を見ました。妖精のように振舞うのを見ました。

いえ、プラトニックですよ。彼女には恋人がいます。それは初めから知っていました。でも、出会ってしまったのです。

彼女も、何度か恥じて「やめましょう。会うと普段の自分ではなくなってしまう」と言いました。

二度と会わないと思ったことはお互いに何度かあります。

最初の春、満開の桜の下を歩いているときに、私は彼女の未来の子供を預かりました。

私との子供であって欲しいと願います。が、多分違うでしょう。

ゲーテの「親和力」という話をご存知ですか ? 子供の頃に読んだが憶えていない、そうでしょう。青臭くて、大人になると忘れてしまうような話です。私もすっかり忘れていました。

二組の夫婦が、互いに別の相手のことを心に置きながら過ごした一夜ののち、産まれてきた赤ん坊は、肉体の父親ではなく心のパートナにそっくりだったという…… いわばおとぎ話です。

私がいま預かっている彼女の子供。もしも彼女に返すときがきたら、産まれてくる子供はきっと私に似てしまうんじゃないか。そんなことを考えるのです。

妄想ですよね。笑って下さい。

男は残った酒を飲み干し、そそくさと勘定を済ませ、夜の街に消えていった。再度会っても、私には彼のことがわからないだろう。

0 コメント: