古典の名作で、むろん何度も読んだことのある「女か虎か」を読み返した。今回は山口雅也・編「山口雅也の本格ミステリ・アンソロジー」(から。
編者・山口雅也氏が続編「三日月刀の促進士」につけた後説で、「私もよくパーティで女性にこの話をし、あなたならどちらを恋人に示したか訊くと」という文(大意)を読み、ハタと気づいた。
改めて読み返す。コロシアムに置かれた恋人は、迷うことなく右の扉に向かった。彼とて幾日幾夜、牢の中で苦しんだことだろう。果たして王女の想像のように、他の女が扉から出たとき「命が助かった喜びに、からだじゅうを燃えたたせながら、女の手を取って連れ出」せるだろうか。
むしろ、王女の姿を観客席に見いだしたとき、一屡の望みもはかなく、扉の向こうにいるわけはないと知り絶望したのではないか ?
生き延びることを目当てに、なにも考えずに右の扉に向かったと考えるから不要なサスペンスが生じる。王女の決断に殉じたと考えれば話は簡単。