カウンターの一番奥に、客が一人。前回は読書のためにほぼ橋に座ったが、「無愛想だったか、店の人と話をすべきか」とひとつ置いた隣、マダムの正面に座る。
本も煙草も出さず、メニューや酒瓶を見ながら会話を待つ。沈黙。奥の男が食べ終わり、救われたようにそちらに話しかけるマダム。
新しい客が二人連れで来る。あと三人来るというから詰めようと、荷物をまとめていると声が掛かった。
「すみませんが、お席移動してていただけませんか」
声の響きにかちんときて。残った酒を飲み干し、カウンターから上、食器を下げる高さに無言でグラスを置く。上衣を着なおし席を立った。
請求を差し出しながら言われた「忙しいときを狙って来ているんじゃありませんか」。
暇なら相手をしてやるのに ? そんな素振りは毛頭なかったよと言い返す。
「いや、親子代々の招き猫なんで」
事実だ。そしてもちろん、二度と訪れる気はない。
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