2010-06-06

「愛の日に」

たしか、高校二年生だったと思う。友人に誘われ、参加した合唱コンクールで憶えた 愛の日に という詩のことを、今でも思い出す。

動画でご紹介したかったが、メドレーの三曲目に入っている程度だ。

高校生のときは、恋をしたいと思って、自分を焦らせちゃいけないよ とほぼ文意のとおりに解釈していた。

自分の娘がローティーンになり、もし早婚だったら自分の子供であってもおかしくない年頃の人々と付き合うようになって、冒頭を歌おうとして別の解釈をしてしまう。

自分が一番大事にしたい人の心を、情熱で無理やりにかきたて、求めたら。

その人が本当に自分のことを愛してくれているのか、あとで迷っちゃうから、やむにやまれないときだけにしておきな。

とね。ひねくれた中年です。


花が自然に開くように
小鳥が春を知るように
愛もいつの日にか自然に訪れる
ことさらかきたてなくても
ことさら求めなくても

まだ霧におおわれている
乙女の日のむこうに
かくれている愛

やがてめぐり会う人の涼しい目が
遠く霧のむこうから
あなたを見つめている

あなたの髪
あなたのほお
あなたのやわらかな耳たぼ

夜がすぎ 朝が訪れ またむかえる夜と朝の
時の流れに運ばれて
ひそやかに近づいてくる
愛の花の開く日

遠くから近づく涼しい目を あなたは待たなければいけない
あなたの美しさが それに応えて
磨かれ かがやいてゆかなければいけない

図書館から借りた高田敏子全詩集 から、全文引いてしまいました。スミマセン。

初出はあなたに (1974) だそうです。

連の区切りを、自分が出会った合唱曲 に合わせて、底本より増やすという改竄が加わっています。

2010-06-01

捨てゼリフ

忘れ物を取りに、金曜にはじめて立ち寄った店。

カウンターの一番奥に、客が一人。前回は読書のためにほぼ橋に座ったが、「無愛想だったか、店の人と話をすべきか」とひとつ置いた隣、マダムの正面に座る。

本も煙草も出さず、メニューや酒瓶を見ながら会話を待つ。沈黙。奥の男が食べ終わり、救われたようにそちらに話しかけるマダム。

新しい客が二人連れで来る。あと三人来るというから詰めようと、荷物をまとめていると声が掛かった。

「すみませんが、お席移動してていただけませんか」

声の響きにかちんときて。残った酒を飲み干し、カウンターから上、食器を下げる高さに無言でグラスを置く。上衣を着なおし席を立った。

請求を差し出しながら言われた「忙しいときを狙って来ているんじゃありませんか」。

暇なら相手をしてやるのに ? そんな素振りは毛頭なかったよと言い返す。

「いや、親子代々の招き猫なんで」

事実だ。そしてもちろん、二度と訪れる気はない。